2024年5月6日 魔人さんの作品
旦那「うーむ、なんだいなんだい、上手くいかねぇ話もあるもんだ」
おかみさん「どうしたんだいお前さん、珍しくそんな神妙な顔をして」
定吉「変でしょうおかみさん、おいらがことづかった手紙をお届けしてから旦那ずっとこうなんですよ」
おかみさん「本当かい、いやだねやましいところでもあるんじゃないのかね」
旦那「揃いも揃って人聞きの悪いことを言うんじゃないよ! …いやね、お里さんが吉三郎との祝言も間近に控えておきながら、あろうことか別の男と駆け落ちしちまったっていうからさ」
定吉「えっ?お里さんってあの…「気立はいいが器量はまぁまぁだねぇ」なんて旦那がいってた…いや、もうちょっと酷ぇことを言ってた気がしなくもないけど、おいらにもよく優しくしてくれる心は綺麗なお里さんのこと?」
おかみさん「 お前さんそんな酷いことを言ってたのかい? いくらあたしみたいな器量よしを見慣れちまってるからって、あんなに気立てのいい娘をつかまえてそりゃあんまりじゃないのさ、いくら本当のことだってねぇ…」
旦那「いい加減にしなさいお前たち、定吉はあることないことでたらめを…それに近頃じゃ人の見目形をアレコレいうのはコンプライアンスに引っかかるんだよ気をつけなさいよ、おかげでちっとも本題に入れないじゃないか」
定吉「そういやぁ駆け落ちがどうのって、旦那、本当なんですかい?」
旦那「どうやらそうみてぇだ、あの吉三郎もかわいそうにな、あたしらは仲人ってわけじゃあなかったが、それでも2人の縁が上手く行くようにと色々気を揉んで世話してやったのに…まさかその吉三郎をお里さんがうらぎるなんて…」
旦那「なんだかあたしまで悲しくなっちまって一杯引っかけたいよ、なあ」
おかみさん「昼間っからしかたないねぇ…だがお前さんの気持ちもわかる、一杯だけだからね」
定吉「吉三郎がかわいそうだって? あはは、旦那もおかみさんも何もわかっちゃいねぇや! お里さんがどこのどいつと駆け落ちしたかはしらねぇけど、きっと吉三郎に縁付くよりはしあわせになってらぁ」
定吉「なにせ吉三郎ってのはああ見えて金づかいが荒いし、癇癪持ちなところもあるってんで、絶対ああなっちゃいけねぇって、おいら、いろんな人から言われてるんだい、まるでうまく人間の皮を被ってる「狸みたいな野郎」なんだってさ、お里さんもきっとそんな吉三郎の本性に気づいて愛想を尽かしたのさ」
定吉「ああ、おいらが届けた手紙はいい知らせたったようで安心だ! 「狸みたいな野郎」なんて、狸にも随分失礼な陰口で、おいらまでなんだか気分が悪かったくらいだからな、これで心置きなく山に帰れるや、ドロン!」